新約は登場人物が少ないです。理由は、扱っている時間軸が短いから。旧約だと、推定可能な人物で最も古いアブラハムが紀元前2000年(今から4000年前)ごろ、最後の預言者であるマラキが同400年(今から2400年前)ごろの人なので、1600年以上の時間軸があります。しかし、新約だとイエスの誕生が紀元0年で、最も長生きしたとされる使徒ヨハネの没年が1世紀末ごろですから、ざっくり100年の時間軸しかないわけです。
まあ、ぼちぼちいきましょう。
●ヨハネ(バプテスマのヨハネ、洗礼者ヨハネ):ヨハネの母とイエスの母が親戚なので、ヨハネとイエスも広い意味で親族になります。イエスに先立って生まれ、活動を開始しました。ユダヤ人が待ち望んだメシアが間もなく来ることを伝え、ヨルダン川で人々に洗礼を授けました。国主ヘロデ・アンティパス(後述)を批判したために投獄され、最後は首をはねられました。その様子はカラヴァッジオら数多くの画家が絵画にしていますし、オスカー・ワイルドは「サロメ」という文学作品にしました
●マリヤ:イエスの母。ヨセフと結婚した時は、ローティーン~ミドルティーンだったらしい
●ヨセフ:イエスの非遺伝上の父。マリヤとの間にたくさんの子をもうけました
●イエス:説明不要。全人類の罪をあがなう神の小羊。救世主。100%神にして100%人。第2位格の神が受肉された方。この方を個人的なメシアとして信じ受け入れた人をクリスチャンと言います
●ペテロ:元漁師。十二弟子(十二使徒)の第1号にして筆頭格。結構短気で激情型。イエスが逮捕された後、3度イエスを「そんなヤツ知らねえ」と否定したのは有名な話。イエスの昇天後、主にユダヤ人に「イエスこそメシアである」と宣べ伝えました。カトリックでは初代ローマ教皇。新約聖書では、ペテロの手紙第1と第2を記しました
●ヨハネ(ゼベダイの子ヨハネ、使徒ヨハネ):元漁師。十二弟子の一人。イエスの死の直前、母マリヤを託された。ヨハネの福音書、ヨハネの手紙第1~3、ヨハネの黙示録を書いた。ヨハネが流されたギリシャ・パトモス島は現在、世界遺産になっています
●悪のヘロデファミリー
①ヘロデ大王:イエス誕生時のユダヤの王。ユダヤ人ではなかったが、時のローマ皇帝アウグストと仲が良かったので、統治を任された。とにかく血の粛清で身内だろう幼児だろうと殺しまくりました。一方、人工港湾都市カイサリア、大要塞マサダ、要塞都市ヘロディオン建設やエルサレム神殿大改築など、都市計画や公共事業を強力に進めました
②ヘロデ・アンティパス:大王の第2子。オヤジが死んだ後、王にはなれず、格下の、一地方の国主に。十字架に送られる直前にイエスを尋問しました
③ヘロデ・アグリッパⅠ世:アグリッパと言えば「グイン・サーガ」に登場する大魔導師様ですが、元ネタは聖書。大王の孫に当たります。ユダヤ人の歓心を買うため、使徒ヤコブを斬首し、使徒ペテロを投獄しました。虫に刺されて急死
④ヘロデ・アグリッパⅡ世:Ⅰ世の子。カイサリアでパウロの尋問に立ち会った
●ポンテオ・ピラト:ローマの第5代ユダヤ総督。皇帝の名代としてこの地域を統治しました。イエスは無罪であると知りつつ、ユダヤ人の圧力に負けて十字架刑を認めました。後にユダヤ人の暴動でローマに送還され、最後は自殺したそうな
●マリヤ(マグダラのマリヤ):七つの悪霊に取り付かれていたが、イエスに追い出してもらった後はイエスに従い、イエスの磔刑を見守り、埋葬を手伝い、復活したイエスに最初に出会いました
●ラザロ(兄)とマルタ(姉)とマリヤ(妹):吉川英治の新平家物語における「麻鳥」一家のような存在か。イエスはこの3人が大好きだったようで、時々家に遊びに寄っている。バタバタ準備に追われる姉が、何も手伝わずイエスの話を聞いている妹に憤慨し、「イエス様、妹を叱ってください!」と訴えたエピソードは有名で、拙宅にはフェルメールによる3人の絵(もちろん複製)が飾ってあります
●パウロ:十二弟子ではありませんが、イエスを除けば新約聖書中、というか歴史上、最も重要な人物かもしれません。今で言えば東大卒の超エリート。有力者とのコネもあり、当初は熱心なユダヤ教徒としてユダヤ教ナザレ派--後のキリスト教--迫害の最先鋒でしたが、「ダマスコの改心」と呼ばれる奇跡によって、イエスこそが旧約聖書に預言されたメシアであることを確信。一転、同胞らの迫害を受けながら3度に渡る大伝道旅行を敢行し、イエスの福音を地中海世界に伝えました。その業績から「異邦人の使徒」とも呼ばれます。「ローマ人への手紙」など新約聖書27巻のうち13巻はパウロの手によります。パウロがいなければ、旧約と新約聖書が一体になることはなかったでしょうし、今の世界がこのような歴史を歩み、現在のような形をしていることもなかったでしょう
●ヤコブ(主の兄弟ヤコブ):イエスの異父弟。「ヤコブの手紙」の著者。パウロ、ヤコブ、パウロらによって開かれた「エルサレム会議」(紀元48年か49年)で重要な役割を演じた。このエルサレム会議が、その後の異邦人世界へのキリスト教の広がりを決定づけました