松山に引っ越して間もないころ、息子とTSUTAYAに行きました。マジッド・マジディ監督の「太陽は、僕の瞳」が店にあるか、端末で調べようとしたのですが、先客がいました。おじいさんというほどではない年配の男性と、店員が何やら話しています。
よーく聞いていると、どうもキリスト教に関連した映画を借りたい、どんな作品があるか調べたいとのこと。それなら私の出番、とばかりに割って入りました。
「おじさん『十戒』はどうや?」
「十戒は見た」
「『ベン・ハー』はどない?」
「それも見た」
「うーん、ほなコメディやけど『ブルース・オールマイティ』は?」
「コメディは嫌い」
(なかなか手ごわいなあ……)「『エルマー・ガントリー』は?」
店員「申し訳ございません、当店には置いておりません」
「そしたら、古い映画やけど『クオ・ヴァディス』は?」
店員「それでしたら、3巻ものでドラマになっております。こちらに……」
で、めでたしめでたしだったのですが、帰り道、はっと気付きました。「しまった『パッション』を一番に勧めるんだった」
聖書はキリスト教信仰の核ですが、敷居が高いのは確かなので、前述のおじさんのように、映画や文学から入るというのは一つの方法です。すべてを網羅できているとは思いませんが、私が観た/読んだものを中心に、いくつかご紹介したいと思います。
映画
(旧約時代を描いたもの)
●天地創造
:聖書に忠実でした。ビジュアルで創世記を学べる良い映画です
●プリンス・オブ・エジプト
:ディズニーアニメによるモーセの物語ですが、私が観ても違和感なく描かれていました
●十戒
:3時間40分の堂々たる大作。聖書にない人物が登場したりもしますが、基本的には聖書に忠実で、「出エジプト記」を視覚的に学ぶには、これ以上にない素材だと思います。半世紀以上前の映画ですが、十分鑑賞に耐えます
(新約時代を描いたもの)
●奇跡の丘
:ちょっと不思議な描かれ方をしていますが、イエスの生涯です
●ナザレのイエス
:イエスの生涯を聖書に忠実に描いています。TSUTAYAのおじさんにもう一度会えるなら、たぶんこれを勧めます
●キング・オブ・キングス
:こちらもイエスの生涯を聖書に忠実に描いています。「イエスが青い目、茶髪なのは如何なものか」という突っ込みはナシで(イエスはユダヤ人だから黒い瞳と髪でないとおかしい)。TSUTAYAのおじさんには、こちらもお勧め
●パッション
:イエスの受難を「これでもか」とばかりにサディスティックに描いた、しかしそれゆえに十字架の愛を感じずにはおられない作品
●サン・オブ・ゴッド
:イエスの生涯を描いた映画としては一番新しい。「ジーザスがイケメン過ぎる」と話題になりました。突っ込みどころはありますが、基本的に聖書に忠実で、初心者の方にもお勧めです
●ベン・ハー
:私の好きな映画ベスト1。これぞ名作
●バラバ
:ラーゲルクヴィストの原作を忠実に映画化しています。「ベン・ハー」ほどではないですが、いい映画でしたよ
●クォ・ヴァディス
:映画とドラマがあります。映画は少々古いですが、相当に壮大です。作者の母国ポーランドで作られたドラマ(全3巻)の方は後述する原作に忠実に作られていました。ただ、深みは圧倒的に原作の方がありました
(近現代を背景にしたもの)
●わが命つきるとも
:トマス・モアの生涯。英国史の教材にも。名作です
●エルマー・ガントリー
:ラスト5分しか観ていません(ちょうど放送が終わるところだった)。アメリカキリスト教史の教材として挙げておきます
●バベットの晩餐会
:牧師の2人の娘が主人公。心にじんわり染みてきます
●汚れなき悪戯
:ラストシーンが感動で感動で
●素晴らしき哉、人生!
:「神さまって、どこかで見てくれてるんだよな」って感じさせてくれる古典的名作
●炎のランナー
:金メダルよりも信仰。音楽も有名ですね
●ブルース・オールマイティ
:主人公は「全知全能社」を訪ね、モーガン・フリーマン(これまたはまり役)演じる「神」に出会います
●天使の贈りもの
:観てませんが、ゴスペル的映画らしい
●天使にラブソングを…
:日本にゴスペルブームを巻き起こした映画
●祈りのちから
:ちょっと説教臭く感じる人がいるかもしれません
●FireproofとCourageous
:私の友人はこの2本を勧めてくれました。日本語になっているかどうかは知りません
●親分はイエス様
:ヤクザをやめてキリストに生きることにした男の話。邦画でキリスト教を描いた映画は他に知りません
文学
●ミルトン「失楽園」
:岩波文庫から上下巻で出ています。いささか難解ですが、ラストは涙なしに読めませんでした。私の大好きな、世界文学の最高峰です
●ラーゲルクヴィスト「バラバ」
:やはり岩波文庫(絶版)。イエスの代わりに釈放された悪人バラバのその後を、想像力豊かに描いた名作です
●シェンキェーヴィチ「クオ・ワディス」
:岩波文庫から上中下で。虚実織り交ぜ、エンターテインメント性と文学性を高いレベルで両立させた、必読の名作です
●トマス・ア・ケンピス「キリストにならいて」
:いくつかの出版社から出ていますが、私は新教出版社版を読みました(妻は岩波を読んだ)。ここに書かれてあることを実践できたらどんなに素晴らしいだろうと思う反面、自分はまだまだだなあとも思います
●バニヤン「天路歴程」「続・天路歴程」
:「このままでは世界は滅びる」と悟った男が、家族も古里も捨て、天の御国を目指して旅に出る物語。「続」では残された家族が後を追います。楽しいですよ
●オルコット「若草物語」
:全体をピューリタン精神が貫いています。仲良し娘4人が「天路歴程ごっこ」をします
●三浦綾子「氷点」「続・氷点」「塩狩峠」「泥流地帯」「続・泥流地帯」
:三浦綾子は日本文学界で唯一のプロテスタント文学者でした。「塩狩峠」は高校時代に母の友人の勧めで読んだのですが、典型的無宗教日本人の私がクリスチャンになる下地を作ってくれたのが本作でした。女性がファンデーション(下地)を塗ってからパウダーを重ねるように、この作品は私にとってファンデーションの役割を果たしてくれたのです
脱線なんですが、若い頃、本屋でアシモフの「ファウンデーション」シリーズ3冊を買った後、その本屋が入っている百貨店に本を置き忘れたことがありました。後日取りに行ったら、帳簿に「ファンデーション」と書かれていて、少し恥ずかしい思いをしました。「ウ」がないと、私が本屋で化粧品を買ったことになるじゃないですか(笑)
●進藤龍也「人はかならず、やり直せる」
:元ヤクザはいかにして改心し牧師となったか
●ミッションバラバ「刺青クリスチャン」
:同上。「親分はイエス様」の原作
●アーサー・ホーランド「不良牧師! 『アーサー・ホーランド』という生き方」
:アーサーは熱くてカッコよくて面白い。こういう人もキリスト教界にはいるんですよ
●深井智朗「プロテスタンティズム」
:本人の評価はさておき、教材としては大変よいです
●マイケル・コリンズ総監修「ビジュアル大百科 聖書の世界」
:大きくて重くて高いですが、勉強になります
●最相葉月「証し 日本のキリスト者」
:大著ですが、一人一人の証し(なぜキリスト者になったか等の話)は短いし、どこからでも読めるので、敷居は高くないです。日本のキリスト教史としても読めます