先日「未来少年コナン」と「新世紀エヴァンゲリオン」の第1話(再放送)を見ました。コナンは1978年の放送で、当時私は5歳でした。そこから30年後の2008年が舞台です。エヴァは1995~96年の放送で、当時就職を控えていた/就職直後だった私は、放送されていることすら知りませんでした。20年先の2015年が舞台です。
両作品に共通するのは「破局後の未来世界」を描いていることです。特にコナンの放送時は「世界が最も核戦争に近づいた」キューバ危機(1962年)の記憶もまだ新しかったでしょうから、その影響もあったでしょうが、宮崎駿、庵野秀明という世界的なクリエイターならではの時代感覚や鋭敏さで、世界に終末が近づいていることを感じ取ったのではないかと思います。
異なるのは「目」ですね。コナンの主人公もヒロインも目に力があって、キャラクターはまっすぐな性格をしています。日本に勢いがあった昭和の空気が感じられます。エヴァの方は目というか表情に影があって、みんなウジウジしてるか感情に抑揚がない/過剰(笑)。日本が下り坂に入った平成という時代の雰囲気がよく表れています。
エヴァの方は劇場版3作品も見ました(2作目までは圧倒されました。3作目で???になりましたが)。あちこちに小道具としてキリスト教用語がちりばめられていたので(それがけしからんという訳ではなく)、キリスト教界の側から少し解説しておきます。
●エヴァンゲリオン:主人公たちの乗るロボット(のようなもの。厳密には人造人間だそうで)です。ガンダムやマクロスと違い「兵器」感があまりありませんね。走って跳ねて肉弾戦をしてと、躍動感を持った存在として描かれています。活動時間に制限があるあたりからも、ウルトラマンに近いですね。
新約聖書の四つの福音書のことをギリシャ語で「ユーアンゲリオン」と言います。元々は「良い知らせ」という意味で、特に戦争に勝ったことを意味しました。キリスト教の伝道師のことを英語でエヴァンジェリスト(Evangelist)と言いますが、いずれも語源は同じです。
●使徒:作中における悪役。第1話に登場する使徒は、「風の谷のナウシカ」の巨神兵のような描かれ方をしています。主に海の方から上陸するあたりは「ゴジラ」を彷彿とさせますね。
聖書における使徒は、狭義ではイエスに召命されたペテロやヨハネら12弟子を指します。広義では12人以外の、イエスと人生(の一部)を共にした人や復活のイエスに出会った人です。この代表例がパウロです。
なお、使徒は英語でアポストル(Apostle)です。第1話の日本語題「使徒、襲来」は英語題で「ANGEL ATTACK」となっていますが、ANGELは天使のことです。こういうのは目くじら立てずにさらっと流すのがよいと思います。
●マギ:メルキオール、バルタザール、カスパールという3台で構成されているスーパーコンピューターの名前のようです。
イエス誕生後、東方から博士たちが礼拝に訪れました。聖書に彼らの名前は記されていないので、バルタザール等は後世の人の創作でしょう。そもそも「博士が3人」という記述は聖書にありません。貢ぎ物が三つ(黄金、乳香、没薬)だったから3人いたんじゃないかと考えられているだけです。
誤解が多いのですが、博士たちがイエスを訪問したのは、イエスが2歳の時です(聖書を注意深く読めば分かる)。「東方」というのはもちろん日本ではなく、古代地中海世界から見た東=オリエント地方=パルティア=今のイラクやイランあたりです。
若桑みどりの大作「クアトロ・ラガッツィ」(4人の少年という意味です。つまり天正遣欧使節のお話)では、使節がローマ法王に面会するにあたり「東から来たのは3人だから4人はまずい」ということで、中浦ジュリアンが「病欠」させられるエピソードが紹介されています。可哀そうに。
●ロンギヌスの槍:よく分かりませんが、作中では大変な鍵を握る槍のようです。
聖書には、十字架上のイエスの死亡確認のため、ローマの兵士がイエスの脇腹を槍で突き刺したという記述はありますが、ロンギヌスという名前は出てきませんので、これも後世の創作でしょう。
●裏死海文書:よく分かりませんが、作中では、ここに書かれていることに沿って陰謀論的に計画を進めている人? たちがいるようです。
死海文書は実在します。死海はイスラエルにあり、塩分濃度が高くて魚も棲めないような湖です。その近くで見つかった文書だから死海文書で、もし琵琶湖のそばで見つかっていたら琵琶湖文書と名付けられていたでしょう。
死海文書は死海写本とも言います。当時は印刷技術がなかったので、羊皮紙等に手で書き写した訳です。何を写したかというと今の旧約聖書の一部で、陰謀とは何の関係もありません。
●人類補完計画:これもよく分かりません。初めて聞いた時は、コードウェイナー・スミスのSF小説「人類補完機構」を思い出しました。テレビ版は「新世紀」と冠がついており、英語で「NEON GENESIS」となっているので、ジェネシス=創世記=新たな人類創造に関する計画なのかもしれません。主人公が第2のアダムでヒロインが第2のエバ? そうなると「ガルフォース」ですね。
人類救済計画なら聖書にあります。その文言自体はありませんが、聖書全体が物語るのはつまりそういう事です。最初の人アダムの失敗と堕落。罪に支配されるようになった人類を救うために来られた「最後のアダム」イエス。再臨のメシアが統治する千年王国=回復されたエデンと、その先にある新しい天と新しい地。この歴史は神による救済史であると言っても過言ではありません。
●ネブカドネザルの鍵:よく分かりません(こればっか)。劇場版でちらっと出るだけですから。
ネブカドネザルは実在の人物です。新バビロニアの王でした。南北に分裂したイスラエル人の王国のうち、残っていた南のユダ王国を滅ぼし、住民、特にエリート層をバビロンに連行・移住させます(バビロン捕囚)。
旧約聖書「ダニエル書」に登場します。ネブカドネザルが見た不可解な夢をダニエルが解き明かします。米映画「マトリックス」シリーズで、主人公たちが乗る船も「ネブカドネザル号」でしたね。
●知恵の実と生命の実:だから分からないんです(笑)。劇場版でもセリフでは出てきますがはっきり描かれていないんですよ。
私の使っている新改訳聖書だと、前者は「善悪の知識の木(の実)」、後者は「いのちの木」となっています。いずれもエデンの中央に生えていました。
前者について神は「それだけは食べてはならない」と命じたのに、サタン(蛇)に唆されてアダムとエバが食べてしまいました。その結果、神が予告した通り「死」が入り込むことになりました。
後者については、文字通り、食べると永遠の生命が得られると聖書にあります。ヨハネの黙示録では、千年王国の次に到来する、新しい天と新しい地に生えている、とあります。
本稿執筆時点では、新型コロナ禍のため劇場版の完結編の公開は先送りになりました。どんな内容になるんでしょうか。3作目までの「???」がすべて解消されることを楽しみにしています。