GIGO

 人格のつづき。
 
 高校サッカー界の強豪校の監督がある時、ドイツから研修生を迎えました。どんな文脈でその会話になったのかは忘れましたが、監督は近くに立っていた研修生に言いました。「君たち外国人は肉臭くてかなわん」。確かに、外国の人って日本人より肉、特に牛肉をたくさん食べるので、体臭が気になるときがありますよね。この研修生は監督にこう返しました。「あなた方日本人は味噌汁の臭いがする」
 
 このエピソードは、私に二つのことを教えました。「人は自分の発するにおいには無頓着だが、他人のにおいには敏感である」と「日常的に摂取しているもので体臭は決まる」です。
 
 食と体臭は目に見えたり、測定可能なものですが、測定不可能なものでも、同じことが言えると思うのです。人が何を取り入れるかによって、何を醸し出すかが決まる。
 
 歩き方などの立ち振る舞い、言葉遣いや語彙の豊富さ、ちょっとしたしぐさ、さりげない気遣い、本棚に並んでいる本、何を話題とするか、どんな人たちと交友関係を持つか、服のコーディネートや趣味、食の好みなどから醸し出されるものを、私たちは総合的に「品格」と呼びます。数値化できないが、確かに感じることができる。
 
 人間は基本的に、自分が一番可愛いいと思う生き物なので、自分の品格に近い人と交友関係を結びます。クラス替えの後しばらくするといくつかのグループに分かれるのは「この人は私に近い人かそうでないか」を一瞬にしてかぎ分ける能力を人は持っているからです。私の子どもたちが幼稚園に通っていたころ、父母の集まりがあると、自然と「医師グループ」「公務員グループ」「教員グループ」と「その他(←私はここ)」に分かれていました。
 
 「日常的に摂取しているもので体臭は決まる」と書きました。人間が摂取に使う〝入力装置〟は、主に目、口、鼻、耳、指(肌)です。表現を変えれば視覚、味覚、嗅覚、聴覚、触覚です。これらの装置から取り入れられたもので、比喩的な意味での体臭=品格は形成されます。
 
 私の場合、意識して目から取り込むのは、聖書を含めてほとんどが活字情報です。テレビは、映画とニュースを除けばほとんど見ませんし、パソコンは仕事で使う以外あまり触らないようにしています。口から取り込むのは大半が奥様の手作り料理でした。今は単身赴任なので、この分野がすっかり貧しくなりましたが。アロマやお香も大好きです。
 
 意識して耳から取り込むのは、賛美歌(コンテンポラリーを含む)、映画音楽、クラシック音楽が大半です。時間の流れの中で淘汰されなかった「本物」だけで十分です。「静寂」も意識して取り込むようにもしています。触覚情報については前述した通り、身体技法研究者の甲野陽紀さんの講習を時々受けて、「末端」(特に指先、足先)から入力される情報の重要性を学んでいる最中です。
 
 
 
 「GIGO」という言葉があります。「Garbage In, Garbage Out」の略で「ゴミを入れたらゴミが出てくる」という意味です。しかし私は、これを「Good In, Good Out」と解しています。良いものを入れれば良いものが出てくるのです。あなたは自分の入力装置を使って、日常的に何を取り込んでいますか? それらが、あなたの人格、品格を決めます。一度「入力の棚卸し」をやってみてもいいかもしれませんね。