私の「5%」その③の1――自分への時間(健康資本編)

 今回は、私が自分の持ち時間と健康を、第3の優先順位である自分に対して使う際のお話です。マルクスじゃないけどキーワードは「資本論」です。
 
 資本というと、資本主義とか資本金とか、お金に関係したイメージがありますよね。労働とは、私やあなたの所有している時間と健康を、職場という装置を通して、経済資本(=お金)に変換する作業だと言えます。
 
 経済資本は追い求めればキリがありませんから、ほどほどにしようと思っています。私がなるべく優先したいのは、自分の持ち時間を「健康資本」または「文化資本」に変換して蓄積する、ということです。ここで言う「資本」とは、経済的なものより広い意味で使っています。「男は体が資本だ」って言ったりしますよね。「何かの基盤となるもの」という意味であり、お金と同じようにフローさせたり、ストックできるものである、というニュアンスを含んでいます。
 
 まずは健康資本からご説明したいと思います。健康資本は、お金と同じようにストック(=獲得・蓄積・拡大)可能なものですが、お金と違ってフロー(=流通、贈与)はできません。一代限りです。
 
 
 
 2009年11月14日は土曜でした。当時私は、同僚が書いた原稿に見出しをつけたり、レイアウトをして紙面を組む「編集」の仕事をしていました。
 
 午後7時。ニュースで「韓国の射撃場で9人死亡/犠牲者は雲仙市在住」と流れました。3月まで勤務した職場管内の人が犠牲になるとは、思いもしませんでした。
 
 編集の仕事が本格化するまでの間「少しでも手助けになれば」と、前の職場で培った人脈を使って電話取材・原稿執筆を始めました。その激しさたるや、北斗神拳の使い手のようでした。
 
 仕事が落ち着いたころから、腰に異変を感じていました。湿布を貼っても効果がないばかりか、湿布を貼っている感覚すらない。痛みはひどくなるばかり。同僚の肩を借りて何とか帰宅しました。これが人生初のぎっくり腰でした。結局、会社を1週間も休みました。
 
 2度目のぎっくり腰は、2011年3月でした。仕事が忙しかったのに加え、東日本大震災の惨状をずっとテレビで見ていたのが精神的に良くなかったのだと思います。寝返りも打てないほど背中の筋肉が硬直し、やはり1週間、会社を休みました。
 
 2014年に3度目のぎっくり腰をやってしまいました。この時もシュトルム・ウント・ドランクな日々が続いていました。
 
 3回目のぎっくり腰の後、心底懲りた私は、整骨院の院長に頼んで筋トレメニューを作ってもらいました。これが「健康資本」を本格的に意識する第一歩でした。
 
 
 
 体の使い方も見直しました。
 
 いつだったか忘れましたが、野球の「ワールド・ベースボール・クラシック」を前に、ヤクルトで活躍した古田敦也さんが「柔よく剛を制す、で頑張って」と日本代表にエールを送っていました。日本的な力の発動の仕方というのは、相手の力を受け流して自らの力に替え、相手を倒す--が基本だと思うのです。イチローさんもいつだったか「体のセンサーでヒットを打つ。パワーで飛ばすようになると、センサーの感度が衰える」という趣旨の発言をしていました。これも、日本的な発想だと思うのです。
 
 映画「シン・ゴジラ」にも、そういう日米の考え方の違いが表れていましたよね。力業でゴジラを退治しようとするのは米国で、日本側は「柔よく剛を制す」で攻めました。
 
 閑話休題。
 
 ぎっくり腰ほど激しくなくても、自転車を持ち上げたり、女性がベビーカーを押して電車に乗ろうとするのを手伝ったり、硬く閉まった風呂の栓を抜いた瞬間に背中や腰を痛めることが少なからずありました。
 
 「体の使い方に問題がある」と考えた私は、古から日本人が積み上げてきた体の使い方、「日本人なりの力の発動の仕方」を指導してくれそうな人をネットで探しました。そこでたどりついたのが、身体技法研究者の甲野陽紀(はるのり)さんでした。幸いにも数カ月に1回、当時私が住んでいた松山に来ていることも分かりました。
 
 甲野さんは、体幹や筋肉ではなく、手や足の指先=「末端」の動きとそこから入力される触覚情報を非常に重視しています。なかなか文章で説明するのが難しいのですが、甲野さんの指導通り、「末端」に意識を向けて動くと、体が調和・連動し、私が本来持っている力が素直に発動されるのが実感できます。
 
 甲野さんの指導を自分なりに落とし込んだ結果、身長168センチで体重53キロの私でも、それなりに上手に力を出すことができ、背中や腰を痛めることは随分減りました。甲野さんの指導を受けるまで、どれほど体の使い方が下手だったのだろうかと思います。
 
 
 
 以前、整骨院の先生から「山崎さんは胃の裏がいつも硬い。ヨーグルトを食べるといいかもしれません」とアドバイスを受けたことがあったので、毎食後、ヨーグルトを食べるようにしました。
 
 私は凝り性なので、ヨーグルト選びには時間をかけました。まず分かったのは、高いヨーグルトほど生乳100%で作られており、安くなるほど乳製品や寒天が原材料に含まれるということでした。
 
 菌には、乳酸菌入りとビフィズス菌入りの主に2種類があり、乳酸菌入りよりビフィズス菌入りの方が整腸作用が高いということも分かりました。生乳100%かつビフィズス菌入りのプレーンヨーグルトは小岩井乳業から出ているのですが、毎日食べるには値段が張ったので、乳製品を含んだもので満足するようにしています。
 
 余談ですが、ビフィズス菌はオリゴ糖が大好きらしいので、砂糖の代わりに少量のオリゴ糖シロップを加えています。オリゴ糖は砂糖の半分ほどしかカロリーがなく、しかも体内に吸収されにくい性質なので、一石三鳥です。
 
 さらに余談ですが、私は開封前のヨーグルトを、バーテンダーがシェイカーを振るように激しくシェイクします。ミルクセーキの作り方にヒントを得たのですが、こうすることによって、ヨーグルトがクリーミーになります。食感が向上するのと、ホエー(乳清)が出なくなります。
 
 
 
 私は新聞記者としてかなり例外的だと思いますが、1日8時間の睡眠を確保することをとても大事にしてきました。自分が睡眠不足なのに、家族に余裕のある対応をしたり、「10%」である仕事できちんとした結果を出せるはずがないと考えているからです。寝るという行為は、健康資本の赤字(疲労、ストレス)を解消する最高の行為です。
 
 
 
 長年、さまざまな手段で健康資本の獲得・蓄積・拡大に取り組んできたお陰で、腰痛は相当減りました。ひどい時には2日に1回のペースで整骨院に行っていたのが、2週間に1回で良くなりました。
 
 現在も、腰痛を起こさない程度にトレーニングとヨーグルトは続けています。オフの日は、筋トレ、ラジオ体操の第1と第2、20~30分の有酸素運動。仕事の日は時間が取れないので、エレベーターやエスカレーターを使わず階段を1段飛ばしで上るようにするなど、日常生活の中で活動量を増やすよう心がけています。「腰痛を起こさないこと」が筋トレのゴールで、筋肉ムキムキになるのが目的ではないので、拡大ではなく維持程度で十分です。ここも大事なポイントです。