子育てをするうえで、大変大きな影響を受けた本です。
厳密には、本書に収録されている「国語教育絶対論」という、それほど長くないエッセーに影響を受けました。藤原さんは数学者なのに、国語教育を最優先すべきだ、と唱えます。そして、「自分から本に手を伸ばす子供」を育てる大事さを説きます。
子育てのかなり早い段階で、本書に出会えたことは幸いでした。3人の子供を授かりましたが、子供が小さいうちは夫婦でよく読み聞かせをし、自分で本を読めるようになってからは、家族で一緒に図書館に出かけ、だいたい1人10冊が上限ですから、計50冊を車に積んで帰宅し、家でむさぼるように読む--というのが、長らく続いたわが家の光景でした。
藤原さんの教えは、わが家で花開いたと言っていいでしょう。
でも、スマホは本当に恐ろしいですね。
いろいろ悩んだ末、高校入学と同時に長女にスマホを与えましたが、あっという間に活字を読まなくなりました。YouTubeばっかりです(ついでに言うと、テレビも見ません)。あんなに本の虫だったのに……。前例踏襲で長男もスマホを持ちましたが、図書室年間貸し出し冊数1位の名誉はどこへやら、ゲーム三昧ですね。同じく貸し出しキングの次男も時間の問題でしょう。
そりゃ、親の力で読書を強制することもできなくはないですが、読書ってそんなもんじゃないですよね。あくまで、自分の楽しみで、自分が読みたいから読むもの。
いつかまた活字の世界に戻ってくれるのを信じて、じっと待ちます。
ご存知の通り、藤原さんは数々の山岳小説を残した作家・新田次郎の次男に当たります。NHK「プロジェクトX」の第1回が、富士山にレーダーを設置した男たちの話でしたが、主要な登場人物の1人、気象庁の藤原課長が後の新田次郎です。新田次郎と藤沢周平ぐらいじゃないですか? 亡くなった後もずっと作品が映画化される人って。
藤原さんのお母さんがやはり作家の藤原ていで、満州からの引き揚げ記「流れる星は生きている」は、私の母も引き揚げ者だったので、涙なしには読めませんでした。大好きな本です。
藤原さんの「国語教育絶対論」と表裏一体で読めるというか、もう少し長い射程で日本語の将来を憂えた名著に、水村美苗「日本語が亡びるとき-英語の世紀の中で」があります。子供に英語を習わせようかお悩みの皆さんには特にお勧めです。
(藤原正彦、新潮文庫)